経営判断の質を高めるには、「正しく考える」より先に、未来を決めること
経営は、判断の連続です。
新規事業に投資するのか。
この人を次のリーダーに抜擢するのか。
今の事業を伸ばすのか、それとも大きく変えるのか。
経営者は、日々重要な判断をしています。
そして、その一つひとつが会社の未来を決めています。
ここで多くの方がやってしまうのが、
「できるだけ正しく考えよう」
「失敗しないように情報を集めよう」
「過去の事例を分析しよう」
という方向です。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
しかし私は、ここに大きな落とし穴があると思っています。
なぜなら、過去と現在を起点に考えすぎると、人は未来を小さくしてしまうからです。
経営判断の質を本当に高めたいのであれば、必要なのは単なる分析力ではありません。
必要なのは、どんな未来を先に見ているかです。
伸びる人、伸びる会社には共通点があります。
それは、未来を先に決めているということです。
今日は、経営判断の質を高めるために、私が大事だと考えている5つの視点をお伝えします。
目次
1. その判断は「現状の中」か「現状の外」か
最初に見るべきは、ここです。
その判断は、現状の中にありますか。
それとも、現状の外にありますか。
多くの経営判断は、一見すると大胆に見えて、実は現状の延長線上にあります。
売上を少し伸ばす。
コストを少し下げる。
組織を少し変える。
もちろん、それも必要です。
しかし、それだけでは大きな飛躍は起きません。
なぜなら、現状の中にある判断は、脳にとって安全だからです。
安全な判断はしやすい。
けれど、安全な判断ばかりでは未来は変わりません。
本当に会社を変える判断、業界を変える判断、組織を覚醒させる判断は、たいてい現状の外にあります。
ですから、経営者がまず自分に問うべきなのは、
「この判断は無難か」ではなく、
「この判断は現状の外に出ているか」
なのです。
2. 過去の正しさではなく、未来の実現可能性で決める
経営会議では、どうしても過去の話が多くなります。
なぜ失敗したのか。
何が悪かったのか。
どこに問題があったのか。
これらは必要です。
ただ、そこに意識を奪われすぎると、組織全体が重たくなります。
私はずっと、フィードバックだけでは人も組織も前に進みにくいと感じてきました。
なぜなら、フィードバックはどうしても過去を強めるからです。
それに対して、フィードフォワードの問いはシンプルです。
「これからどうしたいですか?」
この問いに変わるだけで、脳の使い方が変わります。
会議の空気が変わります。
出てくる言葉が変わります。
たとえば業績が落ちている事業があったとして、
「なぜ落ちたのか」ばかりをやっていると、組織の視線は下を向きます。
でも、
「3年後、この事業をどういう存在にしたいのか」
「その未来をつくるために、今何をやめるべきか」
「何を始めるべきか」
という問いに変えると、未来が動き始めます。
経営判断とは、反省の技術ではありません。
未来を具体化する技術です。
3. 迷ったら、抽象度を上げる
経営者が判断に迷うとき、情報が足りないように見えて、実はそうではないことが多いです。
本当の問題は、抽象度が低くなっていることです。
目の前の数字。
目の前の人間関係。
目の前のトラブル。
目の前の利害。
そこだけ見ていると、判断は苦しくなります。
なぜなら、近いところにはノイズが多いからです。
そんなときに必要なのが、抽象度を上げることです。
たとえば「採用がうまくいかない」という問題があったとします。
抽象度が低いままだと、求人票や条件、媒体の話になります。
でも、抽象度を一段上げると問いは変わります。
「この会社は、どんな未来をつくる会社なのか」
「どんな人が、その未来に参加したいと思うのか」
「私たちは、選ばれる組織になっているのか」
こうなると、採用の問題が単なる採用の問題ではなく、経営そのものの問題として見えてきます。
経営判断で苦しくなったら、自分にこう聞いてみてください。
「この問題を、もう一段高い視点から見ると何が見えるか」
これだけで、まったく違う景色が見えることがあります。
4. 優れた判断とは、「人が動く判断」である
「正しい判断をしさえすれば組織は動く」
そう思っている方もいます。
でも、現実はそんなに単純ではありません。
どれだけロジックが正しくても、
人が納得しない。
共感しない。
本気にならない。
応援が集まらない。
これでは前に進みません。
だから私は、経営判断を考えるとき、必ず
「この判断で誰が動くのか」
を見るべきだと思っています。
未来を描くだけでは足りません。
その未来を、自分だけのものにしない。
周囲の人が「それ、いいですね」「そこに参加したいですね」と思える形にしていく。
ここまで含めて経営判断です。
優れた判断というのは、単に正解を選ぶことではありません。
未来に人を巻き込める判断です。
そして、そのためにはリーダー自身がその未来を信じている必要があります。
言っていることと、やっていることが一致している必要があります。
5. 一点ではなく、全体で判断する
経営者は、強みがあるからこそ偏ります。
営業に強い人は売上を見すぎる。
財務に強い人は数字を見すぎる。
人を大切にする人は厳しい決断が遅れやすい。
だからこそ大事なのが、全体で見ることです。
短期利益にはいい。
でも、従業員の未来にはどうか。
顧客との長期的な関係にはどうか。
ブランドにはどうか。
次の世代への承継にはどうか。
経営判断が危うくなるのは、能力が足りないからではありません。
見ている範囲が偏るからです。
経営者は、一つの正解を探す人ではありません。
複数の重要テーマを同時に抱えながら、全体として最も生命力のある方向を選ぶ人です。
だから、重要な判断の前には一度立ち止まって、こう確認するといいと思います。
「この判断で誰が喜ぶのか」
「誰に無理が出るのか」
「短期と長期の両方で見てどうか」
「会社全体の未来にとって、本当にプラスか」
最後に
経営判断の質を上げたい。
これは、すべての経営者の願いだと思います。
そのために多くの方が、情報を増やし、分析を増やし、会議を増やします。
でも、それだけでは足りません。
むしろ大切なのは、未来の見方を変えることです。
現状の中ではなく、現状の外を見る。
過去ではなく、未来から考える。
抽象度を上げる。
人が動く形で決める。
全体で判断する。
この5つが揃ってくると、経営判断は変わります。
スピードも変わります。
巻き込み力も変わります。
そして何より、会社が生み出す未来そのものが変わります。
経営者の仕事は、単に選ぶことではありません。
未来を先に決めることです。
未来を決めるから、現在の判断が変わる。
現在の判断が変わるから、組織が変わる。
組織が変わるから、結果が変わる。
順番は、いつもここです。
ですから、重要な判断の前ほど、ぜひ自分にこう問いかけてみてください。
「私は、どんな未来を本気で創りたいのか」
この問いから始まる経営判断は、強いです。



