「フィードバック」が難しい認知科学的な理由
「フィードバック」に関して、こんな経験があります。
若い頃、転職直後の新しい西洋人の上司に「久野さん、気がついたことがあったらどんどんフィードバックしてほしい。それが自分と組織の向上につながるから」と言われました。
英語だったので、こんな感じです。
“Hisano-san, please give me a feedback when you think it’s necessary. It will help me grow and also the organization.”
実は、その時が初めて「フィードバック」という言葉を耳にし、その意味を理解した時でした。
同時に、この方は会社の役員だったので「懐が広い人だなー」と思いました。
そしてまだ若い僕は、その話を真に受けて彼にどんどんフィードバックをしていきました。
いつも大変喜ばれ、そのおかげで彼とは大変いい関係を築くことができました。
一方、別の上司との間では苦労もありました。
同じく西洋人で「久野さん、何かアイディアがあったらどんどん伝えてくれ。フィードバックも歓迎だからぜひ聞きたい(同じく英語で)」と言われました。
ところが、その上司は内心は「フィードバック」を欲してはいなかったようです。
言われた通りにどんどん提案し、「フィードバック」をしたのですが、どうも反応が良くありません。
しばらくして他の部門に異動するように指示されました。
仕事の成果はとても上がっていたので、外されるのは不自然でした。
おそらく、僕がいろいろと言うのがうっとうしかったのだと思います。
自分としては頼まれたからいろいろ考えて「フィードバック」をしていたのですが、「フィードバックも歓迎」と言われた言葉を鵜呑みにしてしまった僕が悪かったのでしょう。
その後、降格までされましたのでよほど気に入らなかったということだと思います。
経験上、「フィードバック」はプラスの面がある一方、人と人の間で行うことなのでうまくやらないと強烈なマイナス面があると感じています。
どんなに建前を言っても、感情を挟まずにコミュニケーションを行うことは不可能だからです。
最近、「フィードバック」や1on1、1to1ミーティングの必要性が声高に叫ばれていますが、なかなか難しいのでしっかりと準備をしないと結果につながりにくいと思います。
特に、日本人は、はっきり言うのも言われるのも苦手なので「フィードバック」は苦手だと言われます。
その通りなのでしょう。
ただ、上の例でもわかるように、西洋人でも「フィードバック」は嫌みたいです。
何人かの外国人に聞きましたが、皆、基本的に嫌だけど表面上は平静を装って「フィードバック」を聞く、というのが礼儀なのだそうです。
そもそも、「フィードバック」というのは難しい技術です。
「フィードバック」は、聞き手に過去に目を向けさせるので、どうしても聞き手の感情を逆なですることになります。
過去に目を向けると、脳内では過去の体験とそれに伴う情動記憶が再現されることになり、過去の時点のリアリティを高めてしまい、結果として未来に向かう力が低下します。
これは認知科学ですでに分かっていることです。
「フィードバック」の目的は、過去の良いところは伸ばし、必要な改善を行うことでより良い未来を作ることにありますが、逆に私たちを過去に縛りつけることが多いようです。
そこで私が提案するのが「フィードフォワード®」です。
<続く>